2017年12月16日土曜日

以後、アメブロへ移転します!

「音楽、作曲、楽器の研究しています」
https://ameblo.jp/masaoprince

2017年9月19日火曜日

低い音って、どこから低いの?

音の高低はピッチ(周波数、Hz)で知覚されます。
私達は、そのピッチの違いを「高い・低い」という言葉をつかって表現します。
小職はチェロを少々弾く身なのですが、チェロという楽器は世間では
大体低音楽器として扱われます。
(ほんとは時にはバイオリンパートよりも高い音を出してたりしますが)

さて、ピッチの高低表現ですが、
いったいどこからが低い音なのでしょうか。

良く言われるのは1000Hz以上は高い音、
100Hz以下は低い音ということになっているそうです。

ふーむ。なんとなく言われればそんな気がしますね。
でも、やっぱり気になるので、実験してみました!

つい前日、とあるイベント(○殊な音楽のお祭り(^^;)分かる人には分かってしまう)
でご来場いただいた会場のお客さん約80人一斉に、
いろんなピッチの単音(ビープ音)を聞いてもらい、
「低い!」と思ったら手を挙げてもらう、という実験をしました。

聴いてもらうピッチは16音でランダム。
400, 120, 1500, 500, 100, ,,, と、20Hzから1500Hzまで。
みなさんには都度低いと思ったら手をあげてもらいました。

結果は、こんな感じになりました。
低いと感じて手が上がった数
1500~300Hz 0人
200Hz 5人
150Hz 15人
120Hz 40人
100Hz 80人全員
80~20Hz 80人全員

大体、200Hzはバイオリンの低い音の出る線G線あたりくらいから
低いと思う人が現れ、さらに1オクターブしたにあたる
100Hzあたり(チェロのG線)の音高ではみんなが低いと感じる結果になりました。
通説はだいたい合ってるみたいでした。

ちなみに、チェロの弦は高い順に、A線220Hz、D線147Hz、G線98Hz、C線65Hzです。
やはりチェロの音は低いと言われるのには一理あるかな。
もちろん低音が豊かに響くという印象も大きいですが。

以下、ちょっと余談。
ポピュラーなチェロの小品は大体A線の1オクターブ上あたり440Hzぐらいから下なのですが、
コンチェルトになるとさらに1オクターブ上の音域も良く使われます。
かなり大雑把な表現ですが、チェロの曲をみてみると、
輝かしい音色がするA線で旋律が書かれることがよくみられるのですが、
この範囲はというと、220Hzから440Hzくらい。
弾いていても楽器が良くなるし、奏者からしても弾きやすく歌いやすい(テクニック的にも難しくないし(^^♪)。
一方、太く渋いゴウゴウとした音色を聴かせるためにはC線がよい。
この時のピッチは65Hzから98Hzくらい。
有名どころでいえば、ブラームスの第1番ソナタ、ベートーヴェンの第3番ソナタetc
と数々の名曲をみれば、チェロの音色の魅力のバリエーションを考えて
作曲家は書いていますね。

ミラノ、スフォルツェスコ城にある楽器展示コーナー。楽器好きなら立ち寄ってみてください。入り口は分かりにくいので係員に聞いた方が手っ取り早い。





2017年8月4日金曜日

作曲家と指揮者のはざまで

写真は、今度とあるコンサートで使うモーツァルトのシンフォニア・コンチェルタンテのスコアを楽譜作成ソフトで打ち直しているとこ。珍しいバイオリン・ビオラ・チェロの三重協奏曲で、しばしば演奏されています。
 
そもそも、この曲はイントロからソロが出てくるとこまで書かれてはいるが未完の曲ですが、幾人かの作曲家が補筆して作品として世に出してます。だいぶ昔、学生のころに三枝成彰氏による補筆版をビデオで見ましたが、モーツァルトがそう書くとは思わないですが、それはそれでなんか面白かった記憶があります。詳細はすっかり忘れましたが。

いま私が私が譜面にしているのはオットーバッハの補筆版のスコアなのですが、なんとも鉛筆の書き込みの多いこと!

もとの作曲家のケアが足りないとこもありますが、かなりアーティキュレーションまでいじってる。聴くところによると30年も前に演奏したときに指揮者が書き入れたとのこと。つまりは、補筆版の補筆版!

そして、いま私がさらに補筆…と言いたいところですが、
でも、それはやめるつもり。

理由。確かに、指揮者の書き込み(修正)は演奏する身からするとごもっともな点がおおく、スラーやスタッカートが整合性がなく、強弱記号が抜けてると思いたくなるとこもかなりあります。
でも、さすがにこの書き込みは補筆作曲者の音符たちを変えすぎじゃあないですかねえ…と。なんか○ー○ース版の譜面を見てるみたいで、後に原曲の書きっぷりを知りたい人が困るのではと思っちゃう。

ということで、ぼくはとりあえず作曲者の書いたように復元して綺麗に直すだけにすることにしました。
オリジナルを残し都度演奏家が自分のオリジナリティで解釈すればよいですよね。ま、明らかな落ちのところは直しておきますが。
あとはこれを演奏するのがドイツやウィーンの名門オケの首席たちなので、むしろ彼らに任せた方が良いでしょ!リハーサルでなんとかなるさ。

ただいまそんな感じで、作曲者と指揮者の書き込みの狭間に立たされ、古くてかすれたスコアとにらめっこが続いてます。もー、ぐじゅぐじゅとペンで塗りつぶされた文字はもう読めないぞ!
ふう、やっとカデンツまできたぞー。あと残すは1/4くらいかな。頑張ろー。

2017年7月22日土曜日

黄金比で調弦した楽器をつかって作曲

普段、私たちが耳にする音楽の大半はオクターブ(2倍の音程、ピッチ差)を12分割したドレミで演奏されています。
小学校で習った唱歌、民謡からロックまでほぼ西洋音楽の形式、すなわち五線譜にドレミで記述するシステムでできています。今となっては、日本古来の音楽の雅楽も五線譜かされて出版されています! それだけ、この五線譜&ドレミの論理性と記録性が優れているということを指していると言えます。

さて、このド、ド#、レ…と半音12個からなる音階の起源は、2500年前のピタゴラスによって考案されたものと言われています。純正律や中全音などもありますが、結局はピタゴラス音律の修正版で、音律生成の「システム」としてはピタゴラスの発明以来変わっていません。

◆ ピタゴラス (580BC~500)の音律
二つの1弦琴を並べ、一つを開放弦、もう一つを全体の弦長の1/3の位置に琴柱を挟み3倍音を鳴らします。

このとき、同時に二つを弾くとお互いの音が心地よく響く事を発見したということです。
この高い方の音をオクターブ(2倍音)に収めるために2で割り、周波数比が1.5倍音となるドとソ(完全五度という)を作りました。
そして、さらにソの1.5倍音のレ、さらに1.5倍のラ・・・と、完全5度の繰り返しで12音から鳴る音階を作りました(いわゆる五度圏)。
この音階の「システム」は西洋では長く使われることとなります。
(ただ、ピタゴラス音律ではいくつかの問題があったので、純正律や平均律が作り出されますが、ででもそれらはより良く響くための調整でしかないですね・・・)

ところが、1900年代前半になると、クラシック音楽(いわゆる現代音楽)では、微分音やクラスタ奏法など12音音階に当てはまらない音高が取入れられるようになりました。バルトークやヘンリー・カウエルらが有名でしょう。もう、現代となっては様々なピッチをつかった作曲がなされています。

◆黄金比でピッチを決める
そこで、なにか新しい音律がつくれないかと思い、黄金比を使ってみることにしました。

黄金比は自然界や建築や美術などいろいろな場面で、人が美しく感じる比率と言われています。
式にするとa^2 = b ( a + b )を解きa/bの比は約1.618になります。

ということで、ここでの目標と言うか、意図はこんな感じです。

・既存のとは違った新しい音律をつくりだすシステムの確立
・現代音楽の作曲に対する一アイデアの提案
・アコースティック楽器での奏法と作曲を対象
・開拓された新音律は、一般的に心地よいハーモニーとは限らない。
・とにかく、今までにない新しいサウンドを作りたい。

音律の生成方法は、ピタゴラス音律と同様ですが、掛け合わせる数が3ではなく黄金比の1.618で掛けて、次の音を造り出します。指数関数的に増加しては音律(1オクターブ内の構成要素)が
生成できないので、基準音より1オクターブ増えたら、素数(2,3,5,7,,,)で割ることにしてます。
オクターブを超えるときに素数(2,3,5・・・)のいずれかで割ってオクターブ以内に配置する。
と、詳しい説明はリンクの学会発表のPDF原稿を見ていただくこととして・・・
どんなピッチの音階になるかはこちらのファイルをご覧ください。

・現代音楽のための黄金比を用いた新音律の提案と評価, 日本音響学会2015年秋季研究発表会, 2015.9.
・黄金比による音律で調弦した音楽, 研究報告音楽情報科学(MUS),2015-MUS-107(14), pp.1-6, 2015.5.

◆チューニングをどうする?
 特殊なピッチを考えても、「現実の楽器が対応できない!」ということが多分にあります。
例えば、
・管楽器→専用の楽器を作る!?
・ピアノやハープ→弦が多いから調律が大変!
・バイオリンやギター→易しい
と、バイオリンやギターは新しいピッチによる調律が比較的可能です。
いくら面白いピッチで曲を書いたと言っても、演奏困難(楽器の用意が難しい)では、
やはり演奏してもらえません。
ということで、バイオリンやギターが有力な候補でしょう。

でも、バイオリン属にはちょっと問題があります。
「指定の黄金比ピッチで演奏するのは困難」

そうなんです。通常のドレミのピッチで教育されてきたゆえの障害があるのです。
バイオリンはギターのようにフレットがないので、鍛え抜かれた感覚で
目印がない弦を抑えているので、これまでの通常のドレミ以外で、
○○Hzのピッチを抑えてくださいということは到底不可能に近いのです!

でも、次のような工夫で限定された音楽を書くことなら可能。
・開放弦とハーモニクスで曲を構成
そして、ハーモニクスを重音やアルペジオにすることで特異な音程がより明確に、
また、パートの音を重ねることで黄金比の音程をより複雑に表現して効果的に
するといった工夫で音楽的作品が作れそうな可能性が出てきます。














一方、ギターはフレットがあるのでさらに多くの音が使えるのですが、
ただしハーモニクス以外は黄金比の音律にあるとは限らない、といった
本来の意図やこだわりが満たせないところに目をつぶれるかどうか・・・

◆実際に黄金比のピッチで曲を作ってみた
では、どんな音になるのか?
現代音楽の部類に入る曲(この表現は好きではないが)を書いて、友人に録音をしてもらいました。
黄金比による弦楽四重奏曲、プリペアドギターの作例はこちら
Youtubeで公開している曲。
String quartet by golden ratio
Nocturne for Big City (Prepared Guitar and Tape)





 

2016年11月27日日曜日

ピアノ三重奏用のピアソラ名曲集(リベルタンゴetc)

Selection of Astor Piazzolla for Piano Trio
ピアノトリオ(ヴァイオリン・チェロ・ピアノ)による編曲集を発売しました。
コンテンツは名曲4曲をカップリングしていて、アディオス・ノニーノ、リベルタンゴ、エスクアロ(鮫)、オブリビオン(忘却)です!
下記よりインターネットでお求めいただけます。
http://store.shopping.yahoo.co.jp/hottagakufu-store/z4jg1k4fw2.html

2015年4月21日火曜日

癒しと音楽

 2011の東日本大震災が起こった当時、日本国内で様々なイベントが自粛されましたが、その潮流はクラシック音楽界も例外ではなく、各地でコンサートの中止や延期が相次ぎました。
 以降、被災された方々を励まそうと国内外のプロ・アマ問わず非常に多くの音楽家による追悼演奏が数多く行われ、本誌ヴィヴァーチェをご覧の方々の中にもそういった追悼コンサートに足を運んだり、もしくはプレイヤーとして追悼演奏をされたりした方々も多いかと思います。

大きな災害を受け復興に向かおうとしている状況において、多くの人が「癒し」を求める傾向は人間心理としてごく自然な流れであるといえます。上で述べたように追悼ライブや復興応援コンサートが多くなされることも、音楽に癒しを求めそして明日への活力をもらおうとする心理が働いているからです。

では、なぜ、人間は音楽を「癒し」の一つとして利用するのでしょうか。

音楽には人間の脳・神経に作用し、心理的に何かが改善されるという効果がある、と考えられていることに拠ると考えられます。例えば、それは音楽療法(Music Therapy)という言葉で代表されるように、音楽の人間に与える効果が医学、心理学、認知科学、バイオメカニズムといった分野で研究されています[文献1]

音楽療法という言葉をお聞きになった方は多いと思いますが、これは起源をさかのぼれば、ギリシャ神話ではオルフェウスが竪琴を弾いて病を治癒し、旧約聖書でも羊飼いダビデがユダヤ王のうつ病を、竪琴を弾いて治したといった神話から来ています。

音楽療法の定義とは、日本音楽療法学会によれば、

『音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること』

と、定義されています。近年、音楽療法が注目されつつあり、2001年にようやく日本でも音楽療法士という認定制度が始まりましたが、残念ながらこれはまだ国家資格ではありません。まだ、高齢者施設や養護保育などのカリキュラムの一部としてしか実践されてないのが現状です。音楽療法といっても様々で標準的な体系も整っておらず、保険の下りる医療診療の対象とはならず、まだまだ日本では未成熟な領域ですが、裏を返せば未知なる可能性と今後の発展が見込める分野ともいえます。 

もう一つ、音による「癒し」を科学的に分析するキーワードに、「1/ fゆらぎ」という周波数特性があります。

そもそも音()とは空気の圧力振動現象でして、太鼓やヴァイオリンといった楽器(音源)で発生した振動が、空気という媒体に圧力変動を与え、この変動が空気中を伝わり人間の鼓膜に届きます。

また、音は空気振動なのです周波数を持ちます。電子的な「ピー」という単調な音は、単一の波形でできていますが、ギターやヴァイオリンなどの「音色」をもつ音の波形は非常に複雑
で、異なる周波数による波形の重ね合わせでできています。その複雑な波形を周波数分析(パワースペクトル解析)すると、どの周波数がどのくらいのパワーを持っているかが分かります。そこで、各周波数の持っているパワーを周波数の低い方から順に並べると(図1)、その音()がもっている性質がを見ることができます。
では、「1/ fゆらぎ」とは何かというと図1のように、その分析結果のパワーの並びが斜めにきれいに並んでいる状態をいいます。パワースペクトルでみると電子音は縦に、雑音(ホワイトノイズ)は横に表され、「1/ fゆらぎ」は斜線(図の斜め矢印方向)で表されます。

この波形特性による音を聞いたときに、人間の脳はリラクゼーション効果を得ることができると言われています。この「1/fゆらぎ」は具体的には鳥のさえずりや小川のせせらぎがこれにあたり、クラシック音楽や三味線の音もこの波形に相当します。残念ながら、南米民族音楽ではこの特性は得られないようです
 
 
 
参考文献 .1 市江 雅芳: “音楽と人間との新しい関わり~音楽療法とその周辺~”, バイオメカニズム学会誌, Vol. 30, No. 1, pp.26-30, (2006)

2015年2月3日火曜日

今回は、コンサートのパンフレットに掲載された曲解説より。
モーツァルトの悪妻といわれたコンスタンツェについて。

 「アマデウス」という映画をご覧になったことがある方は多いのではないかと思う。その映画の中のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)は、天真爛漫で、無計画、浪費家、女性好き。そしてもちろん神童ではあったが総じてクレイジーといったイメージではなかっただろうか。
  コンスタンツェ・モーツァルト(1762~1842)はモーツァルトの奥様で、悪妻だったといわれている。しかし本当に悪妻だったのか? そもそも彼女はモーツァルトとの間に6人の子どもを出産し、出産時の影響もあり長く療養生活をおくっている。そんな身体の状況で本当に悪妻だったとは信じがたい。

寝たきりの生活が長かったコンスタンツェ。モーツァルトは外出するとき彼女の枕元に必ずメッセージを残していた。たとえば、「おはよう、かわいいひと!僕の願いは、お前がぐっすり眠り、なにものにも妨げられず、突然飛び起きたりせず、身をかがめず、伸ばさず、召使に腹を立てず、次の部屋の敷居をまたがないことだ。ぼくが戻ってくるまで、家出の不愉快を節約おし。お前に何も起こりませんように!――時頃戻る、云々。」

こういう思いやりのあるメッセージが日々書ける男性が世の中にはどれくらいいるか?

方や、コンスタンツェのエピソードとしては、モーツァルトがオペラ「ドン・ジョバンニ」の初演に際し、上演2日前の夜、序曲を書き加えることになった。ただ既に疲労と眠気で起きていられなくなったモーツァルトを「1時間したら起こすから、ソファーで寝たら」と勧め、実際は彼が深い眠りに落ちている様子を傍らで見守り起こすことが可愛そうになり、少し長く寝かせ2時間後の早朝5時に揺すり起こした。それでも7時には序曲が仕上がり、本番に間に合った話が残されている。これこそ内助の功ではなかろうか。モーツァルトの能力を信じ、彼が多忙な中、ベストを尽くせる環境を用意できる賢い女性。
これらの話は、モーツァルトが亡くなり10年後にコンスタンツェが再婚した相手、G.N.v..ニッセンの執筆した伝記から引用したもので、この伝記の刊行者はコンスタンツェ本人。モーツァルトが狂人変人のように作曲業に没頭できたのは、実はこのようにお互いを思いやる夫婦愛があったからなのではと、このニッセンの伝記から推測できる。

ということなのですが、イメージ変わりましたでしょうか?